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【みらいzoom50】キャリア教育におけるプロジェクト学習の意義とは?

2022年09月30日 更新

自分の専門性を高めたい、エビデンスに基づいた実践や提案・提言をしたいと考え、大学院の博士課程で学び直しをしています。

所属しているのは、キャリア教育研究室で、取り組んでいる研究テーマは、プロジェクト学習がキャリア教育に果たす意義」についてです。

子どもたちが自ら学び考え、主体的、協働的に判断し表現し、課題を解決する力を身につけることが重視される教育の変化において、課題解決型の学習への期待はますます大きくなっています。

その学習方法の一つとして、「プロジェクト学習」が脚光を浴びています。

そこで、今回のみらいzoomでは、記念すべき?50回目ということで、少しいつもと趣向を変えて…

「プロジェクト学習ってそもそも何?」「なぜ必要なの?」など、素朴な疑問に対して【研究的観点から整理】してみました!(ちょっとかたくて、読みにくくなります…)

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①プロジェクト学習とは
②なぜプロジェクト学習なのか?
③キャリア教育におけるプロジェクト学習の意義
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①プロジェクト学習とは

プロジェクト学習の定義は、いろいろありますが、私は今のところ溝上先生の定義がしっくりきています。

 

“プロジェクト学習とは、実世界に関する解決すべき複雑な問題や問い、仮説をプロジェクトとして解決・検証していく学習のことである。学生の自己主導型の学習デザイン、教師のファシリテーションのもと、問題や問い、仮説の立て方、問題解決に関する思考力や協働学習等の能力や態度を身につける”(溝上他、2016)

 

さて、日本において市民権を得たとも言える「プロジェクト学習」は、いつ頃から始まった学習方法なのでしょうか。

プロジェクト学習をはじめに概念化したのは、アメリカの進歩主義教育の研究者であるキルパトリックです。1918年に論文「プロジェクト・メソッド」を発表しました。

キルパトリックは、プロジェクトを一定の社会環境のなかで行われる、学習者が全精神を傾ける、目的のある活動であると定義しました。

 

この目的のある活動を学習者のおかれた状況によって準備し環境を整えることが「プロジェクト・メソッド」の教育方法でした。

キルパトリックはプロジェクト活動の基本的過程として『目的・計画・実行・判断』を定めました。

 

第一の「目的」は、問題を自ら解決するために、子ども自身が目的を定め、設定する段階です。

第二の「計画」は、目的の達成に向けて、さまざまな資料や知識を集めて計画を立案する段階。

第三の「実行」は、計画案に基づき必要な材料などを集めて実行する段階(プロジェクト・メソッドでは、実行の結果よりもプロセスに重きが置かれています)。

第四の「判断」は、実行した経験をふりかえり、計画の実現を判断し、評価する段階です。

 

キルパトリックの提唱したプロジェクト・メソッドは、その後、日本の大正時代の自由主義的教育運動や戦後新教育のコア・カリキュラム運動において影響を及ぼしました。

 

②なぜプロジェクト学習なのか?

 

さて、キルパトリックは、プロジェクト活動の基本的過程として、「実行」を位置付けていますが、プロジェクト学習の必須要件とは何でしょうか。

ダーリング・ハモンド(2017)は『本物の成果、イベントに帰着する複雑な課題を完成させることである』と示しています。

奥野(2011)は『課題やテーマに対する最終成果物を実社会へ還元することである』と位置付けています。

鈴木(2012)は『プロジェクト学習は、現実の中で行い、学習のゴールとして価値ある「知の成果物」を作り出すことが特徴であり、それはテストやレポートのようなものではなく、現実に他者に役立つ知の成果である』と論じています。

 

これらからプロジェクト学習には、【実社会での実践や還元」が要件として必要である】と考えています。

高校生に焦点をあてると、高校生期における発達課題と向き合っていくために、この実社会での実践や還元が必要だと考えています。

ちなみに、高校生期における発達課題は次のように示されています。

 

「将来設計の立案と社会的移行の準備」「進路の現実の吟味と試行的参加」等が特に重要とされ、キャリア教育の視点から、現実的に社会・職業の理解を深めることや,自分が将来どのように社会に参画していくかを考える教育活動などを指導計画に位置付けて実施することが必要である。(文科省、2011)

 

とくに、高校生期においては、目先の受験に合格するということが優先され、「社会的移行の準備」や「試行的参加」が不十分なまま、とりあえず進路を決定してしまうという実態もあります。

そこで、プロジェクト学習を通して、現実のテーマに即した「社会的移行の準備」や失敗も含めた「試行的参加」が、進路やその先のキャリアの模索を行うことに結びつくと考えています。

 

③キャリア教育におけるプロジェクト学習の意義

 

認定特定非営利活動法人カタリバが「全国高校生マイプロジェクト」に取り組んだ高校生に対して行った調査(2022)では、プロジェクト学習(実践型探究学習)の経験が、高校生たちの以下の力を育むことが明らかになりました。

「社会参加への効力感」
「社会課題解決への意欲」
「自分の将来に対する前向きさ」

(参考:https://www.katariba.or.jp/news/2022/03/08/36824/

 

「自分の将来に対する前向きさ」など、キャリア教育における進路意識において、プロジェクト学習が一定の成果を出していると言えます。

みらいずworksが事務局をしているNIIGATA☆マイプロジェクトLABOにおいても、プロジェクト学習を進める中高生を目の当たりにしています。

3名にインタビューをしましたが、自分にとってのプロジェクト学習の意義として、以下のようなことを話してくれました。

 

「プロジェクトを通して、こうなりたいというロールモデルにたくさん出会い、将来イメージが明確になってきた」
「プロジェクトを通して、大学の先を考えるようになった。自分にあった既存の職業がなければ起業してみようと考えている」
「一人でからに閉じこもっていては、見つけられなかった感覚を得ている。プロジェクトを通して、自分の視野がどんどん広がっていく感覚がありました」

 

など、プロジェクトを通して、進学や就職などの先の人生や役割・仕事が見えてきた挑戦や失敗、出会いを通して、価値観や職業観が高まっていったようです。

プロジェクト学習を通じて、高校生がどんどん成長を遂げていくので【プロジェクト学習をする/しないの差】がこれからどう表れるのか、格差が生じるのではないかという危惧を感じるほど、プロジェクト学習の意義は大きいと肌で感じています。

今後、研究を通して『プロジェクト学習を通じて高校生の進路意識の変容や発達がいかに起きたのか』や、そのメカニズムや要因を明らかにしていこうと研究の計画しています。

将来の生き方や働き方につながるプロジェクト学習の促進要因(カリキュラム、環境、プロセス)を明らかにすることで、今後の各現場でのプロジェクト学習推進に寄与していきたいです!

また、随時、研究についても発信してまいります^^

 

<参考文献>

・奥野麻弥『プロジェクト型学習によるキャリア教育のあり方とICT利活用の役割-企業と学校とをつなぐキャリア教育コーディネーターの実践から-』コンピュータ&エデュケーションVOL.30(2011)
・鈴木敏恵『プロジェクト学習の基本と手法―課題解決力と論理的思考力が身につく』教育出版(2012)
・ダーリング・ハモンド『パワフル・ラーニング-社会に開かれた学びと理解をつくる-』北大路書房(2017)
・中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(2011)
・溝上慎一・成田秀夫『アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習』東信堂(2016)
・文部科学省『高等学校キャリア教育の手引き』(2011)