未来にふみ出す学びを 子どもたちへ

お知らせ・活動レポート

【みらいzoom3】学びのこれからを考える

2017年05月31日 更新

みらいずworks小見まいこです。

最近読んで面白い!と思った本の紹介です。

 

リヒテルズ直子・苫野一徳著

「公教育をイチから考えよう」(日本評論社、2016年)

です。

https://www.amazon.co.jp/公教育をイチから考えよう-リヒテルズ-直子/dp/4535563454

 

先日、みらいずworksスタッフが著者のお一人である、教育哲学者の苫野一徳さんの講演を聞きに行き、お話に共感して帰ってきました。

そこで手にとってみた一冊。

もうお一人の共著者であるリヒテルズ直子さんはオランダのイエナプラン教育等との比較から日本の教育のあるべき姿を論じておられます。 

 

混沌とした、課題も複雑化している現代において、日本の公教育は転換期を迎えています。国から次々と教育改革の方針や具体が打ち出されていますが、本質やビジョンをきちんと押さえておかないと、上滑りしてしまうのではないかと危惧しています。

この本は、そんな私の不安やモヤモヤを言葉にしてくれ、公教育の意味や方向性を根底から問い直し、公教育の未来に何が必要かを示唆しています。

 

以下、本の引用や要約をしながら、考えたことを紹介していきます。

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「これからを生きる子どもたちに必要な力とは何か」

最近、よく論じられることですが、苫野さんは、それ自体を与えられるものではなく、子どもたちが自ら考え、答えを出していくことが必要だとおっしゃっています。

 

 このような社会(ポスト産業主義社会=知識基盤社会)において、「学力」は、決められた知識・技能をただ蓄積していくこと以上に、みずから学び、また学び続ける力へと質的な転換を迫られています。〜省略〜教育は今日、「学ぶ力」「考える力」「考え合う力」を、やはりすべての子どもたちに育み、保障しなければならないというべきなのです。この息苦しい時代・社会において、どうすれば自分なりの幸せや自由を得られるのだろうか?そのために力能はいったいどのようなもので、どうすれば学び取っていくことができるのか?子どもたちは、こうした問いを、ただ教育から受け身に“与えられる”だけでなく、みずから考え、学び、そして多様な人たちと協力し合って、“答え”を見出していく必要があるのです。「決められたことを決められた通りに」「言われたことを言われた通りに」勉強させることが中心の教育では、そんな子どもたちを力強く育み支えていくことは困難でしょう。(p105-106

 

子どもたちを抜きにして、教育改革を語るのではなく、子どもたちが自分にとってどんな学びが必要なのか、自分なりに考え、デザインできるような教育、個々の「学びたい」という欲求に応えられる教育であってほしいと思います。 

それを実現しているのがオランダの教育だそうです。よい教育は一人ひとりによって異なるという考えのもと、多様な選択肢の中で子どもにとって最善の学校を常に選択できる「教育の自由」という仕組みが確立しています。国が公表している人間形成の目標に沿って、各学校が創意工夫して教育をデザインできるゆとりが保障されており、一人ひとりの教員に教育方法を柔軟に変えたり、教材を選んだりする自由裁量権が広く保障されているそうです。

そこまでは及ばないとしても、現在、文部科学省が示している「社会に開かれた教育過程」を中核にしたカリキュラムマネジメントは、これからの子どもたちに本当に必要な学びをつくり出す改革として、通じていると感じました。

 

オランダの教育に影響を与えたイエナプラン教育では、学校を、新たな地球市民育成の場として捉えなおし、あるべき姿を「イエナプランのコア・クオリティ」としてまとめています。

 

 このコア・クオリティを見ると、イエナプラン教育が、子どもたちにどんな知識やスキルを伝達するかではなく、子どもたちが自分自身と他者とをあるがままに受け入れ、世界に対して責任をもって関わり、学び続ける人間になるように発達を支援するものである。( p 147)

 

 と示し、リヒテルズさんは同様にアメリカの教育ビジョンから教育の目的として、「個の自立」「他者との共存」「世界への理解」をあげています。

これは、グローバル社会において、価値観や文化の違う人たちと互いに課題を乗り越えよりよい世界をつくるとともに、民主主義社会を築いていく上でも重要な視点です。学力の3要素として論じられた「主体性・協働性・多様性」にもつながると思いました。

 

また、苫野さんは、学びの「個別化・協同化・プロジェクト化」をはかり、それらを融合しながら、子どもたちに「学ぶ力」と「相互承認」の感度を育てていくことを説きます。

プロジェクト化とは、様々なテーマを自分なりの仕方で探究し、自分なりの“答え”を見つけていく学びです。まさに探究学習であり、社会に開かれた教育過程の中核をなす学びのあり方だと考えています。

京都市立堀川高等学校をはじめ、探究学習を中核に据えて先進的に学校改革に取り組み、着実に成果を出している学校も増えてきました。

 

みらいずworksでは、「何を大事にして、どんな風に生きていきたいのか」という「自分軸」と「人とどうかかわり、社会とつながっていきたいのか」という「社会軸」の両軸を育てるキャリア教育を目指して取り組んでいます。

まさに、プロジェクト型の学びは、自分の問題意識から考え、動き、形にしながら、自分の幅を広げ、社会との関わり方を身につけていく、自分軸・社会軸のどちらも育む学習プロセスと言えます。

 

そしてそれを支えていくのが多様な他者との対話だと考えています。とくに、“そもそも”を問う、「哲学対話」が重要だと本書を読んで実感しました。

 

本書では、「哲学とは物事のあるいは問題の本質を見抜き、その問題をどうすれば根本から解き明かせるのか、その原理(考え方)を提示するもの」と記しています。

 

先が見えない時代だからこそ、自分とは何か、生きるとは何か、私にとっての幸せとは何かなど、問い、語り合うことで、本質をとらえること、自分軸を見定めることができるのではないでしょうか。

 

 本書によると、オランダの小学校では以下のような子どもたちへの問いカードがよく使われているそうです。

・誰か他人のみらいを盗むことができるか

・絶対に変わらないものって何だろう

・白鳥は自分が美しいことを知っているか

 ちなみに、フランスの幼稚園で哲学の授業がなされている様子をドキュメンタリー映画「小さな哲学者」で観て、感銘を受けたことを思い出します。

http://www.phantom-film.jp/library/site/tetsugaku-movie/

 

 幼い頃から、あなたはどう思う?私はこうだけど、どう考える?と大人たちが問いかけることを欧米では日常的にしているのですね。

 これからは、今まで当たり前だったことが変わったり、自分の中の常識を広げて考えて、多様な価値観を受容していくことが必要です。大人は自分の価値観を一方的に教えることよりも、問いかけ、一緒になって考えることが重要になると思いました。

 

本書の締めくくりは、子どもたちと大人はもちろん、教員や保護者、地域住民らが一緒になってビジョンを語り、共有することで、「みんなでこの学校をつくっていこう」という意識の共有がなされ、学校は具体的に何ができるか、考えあっていくことの必要性を説いています。

 

先生だけが公教育を担うのではなく、保護者や地域、子どもたちをも巻き込みながら、社会全体で学校をつくっていくこと。社会に開かれた教育過程は、学校だけが考えつくるのではなく、それ自体をみんなで考え、構築していくことが重要だと改めて気づかされました。

 加えて、公教育はこうあるべきだという考えは個々人にあり、時代の変化もあり、正解はないのかもしれません。しかし、その共通項を見出していくこと。「これで良いのだ」と自分の教育観に安住することなく、常に問い合い、進化・深化していくことが大事なんですね。

 

みらいずworksでも、先生や教育に関わる様々な方々と共に、

公教育とは何か?どうあるべきか?を問い、考え続けていきたいです。

 

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実は、この本とリンクするみらいずworksのイベントが目白押しです!

シンパシーを感じますし、私たちの取り組みを後押ししてもらったような気持ちでいます。

 

1)社会に開かれた学びで、地域・学校はどう変わるのか〜これからの子どもたちに必要な学びとは〜

東京、岐阜から地域の自治や学校改革の第一人者をお招きして、社会に開かれた学びで、地域・学校はどう変わるのかというテーマで、これからの子どもたちに必要な学びについてみなさんと探究します。

  •  日時:2017年6月17日(土)13:00〜16:30
  • 場所:万代市民会館 多目的ホール(新潟市中央区東万代町9-1)
  • 参加費:3,000円
  • 詳細:こちらをご覧ください→ http://miraisworks.com/1056
  • 申し込み:フォームにご記入ください→https://goo.gl/forms/SIG35Y8Y5vRhdr332

 

2)みらいずカレッジ

みらいずworksが今必要だと感じる「これからの学び」を共に考え、深め、つながり、創りだす実践的な学びの場です。

今年のテーマは、「『深い学び』を実現する、探求学習をつくる」。

探求学習をつくる上で、欠かせない問いづくり、場づくり、プロセスづくりをテーマに全国で引っ張りだこの吉田さん、藤岡さんをお招きし、全3講座を開催します。

◾︎7月30日(日)9:30〜16:30 「探求の問いづくり編」講師:吉田新一郎氏

◾︎10月29日(日)10:00〜19:00「探求の場づくり編」講師:小見まいこ

◾︎11月19日(日)9:30〜17:30 「探求のプロセスづくり編」講師:藤岡慎二氏

詳細:こちらをご覧ください→ http://miraisworks.com/1007

申し込み:フォームにご記入ください→https://goo.gl/forms/sBkygDK5EIK3v8SG3

 

3)中高生みらい探究ラボ「SPAiRAL〜ジブンと社会のみらいをつくる〜

今年度新たな挑戦として、中高生のプロジェクト型の学びをつくる予定です。

中高生発の企画をうみ出し、動きながら考える「探究スパイラル」の中で、ジブンのみらいと社会のみらいをつくっていく機会です。

その中で、全体を貫くのはプロジェクト型の学習ですが、本質や課題を問うという意味で、哲学の要素も含まれています。

 近日中に情報を公開する予定ですので、ご期待ください。

 

 

ぜひみらいずworksのつくる、学びや出会いの場で、これからの教育のあり方について語り、共につくっていきませんか。

 みなさんのご参加をお待ちしております!